京都府京都市
2026.04.24 (Fri)
目次
京都・北山で、2026年3月6日から29日にかけての24日間、「北山エリア活性化実証実験」が行われました。北山街協同組合とトヨタ自動車九州株式会社が手を組み、次世代モビリティ・e-Palette(イーパレット)を活用しながら北山エリアのにぎわい創出を検証するという試みです。期間中は毎日、移動型バーや日本茶体験など54もの体験イベントが開催されました。

次世代モビリティ・e-Palette。
桜が咲き始めた3月28日に京都府立植物園で行われたのが、大丸京都店による親子向けプログラム「だいまるきょうとっこがくえん 開園7周年記念プログラム」です。内容はe-Paletteの試乗とトヨタ自動車九州・宮田工場のオンライン工場見学。予約はすぐに満席になり、ファミリー40組が体験に参加しました。

「だいまるきょうとっこがくえん 開園7周年記念プログラム」には大丸のキャラクター・京都大好き推進室長のデッチーくんも登場。
今回の取材では北山街商店街、大丸京都店、トヨタ自動車九州、京都府立植物園の担当者にそれぞれの想いをお聞きしながら、京都・北山で実証実験を行った理由、地域と若い世代をつなぐ取り組みの意義を探りました。

京都北山街商店街の理事長・公文一喜さん。
北山は都市、文化、学び、自然が共存する、モダンで洗練されたエリアです。1980年代から1990年代までは“京都の表参道”と呼ばれるファッションストリート、2000年代はウエディングストリートとしてにぎわいましたが、次第に店舗の撤退が増えました。
京都北山街商店街の理事長・公文一喜さんは「京都府立植物園には年間90万人、京都コンサートホールには年間20万人が訪れていますが、多くの人たちは街を回遊しないまま帰ってしまいます。次の策を練らなければと思っていました」と話します。
今回の実証実験は、「地域経済を循環させる仕組みを作りたい」と望む公文さんと、「e-Paletteの可能性を、生きた地域で試したい」と考えるトヨタ自動車九州が出会ったことから生まれたものです。

今回限定の特別なラッピングが施されたe-Palette。側面には石畳と、上賀茂神社のご神紋・二葉葵(ふたばあおい)をイメージしたハートマークのデザインがあしらわれました。
実証実験で公文さんが最もこだわったのは「イベント後も、地域と人の結びつきが続くこと」と、京都の人が認める「ほんまもんの体験」です。この日の「だいまるきょうとっこがくえん」について、公文さんは「大丸京都店さんの『京都の子どもたちにこそ、本物を届けたい』という想いに、北山街協同組合も共感しています。精一杯お手伝いさせていただきました」と語っています。

「だいまるきょうとっこがくえん」の仕掛け人・奥野知亜未。
「だいまるきょうとっこがくえん」は、大丸京都店が小学生以下の子どもたちを対象に展開する体験プログラム。テーマは「楽しく学んで、楽しく遊ぶ」です。
仕掛け人の一人である奥野知亜未は、子育て中の現役ママ。2019年の開校当初は、館内店舗とのコラボレーションでパン作り体験などを実施していましたが、コロナ禍で中断を余儀なくされ、奥野たちはプログラムを見直すことになりました。
「子どもから『ひなまつりって何?』『京都の6月の和菓子・水無月は、何のために食べるの?』と聞かれたとき、うまく説明できなかったんです。そこで京都の歳時記や伝統工芸文化の体験プログラムに方向転換。現在は月4回、京都の衣食住、芸術、職業体験を学べる授業や体験イベントを開催しています。」
これまで京都市内各地で体験授業を開催してきましたが、北山エリアで行うのは今回が初めてでした。

「北山から大丸京都店のある四条駅までは、地下鉄で10分強と比較的近い。しかし、これまで私たちがアプローチできていなかったからか、北山エリアの方々とは心の距離が離れていると感じていたんですよ。『だいまるきょうとっこがくえん』を北山で開催することで、地域の皆さまと直接つながりたいと考えました。」


この日、広い植物園の中で目を引いていた、黄色い車体のe-Palette。「かわいい!」「乗ってみたい!」と、たくさんの人たちがカメラを向けていました。ファミリーを乗せたe-Paletteは園内をゆっくりと走行。大きな窓からは春爛漫の景色を眺めることができました。


e-Paletteの試乗を終えたファミリーは、植物園会館の2階研修室に移動。福岡県にあるトヨタ自動車九州の宮田工場とリアルタイムでカメラをつなぎ、レクサスが作られる工程や検査の様子を見学しました。
トヨタ自動車九州のスタッフによるクイズ形式の問いかけに、子どもたちが元気に手を挙げて答える姿が印象的です。会場は終始、笑顔に包まれ、春の陽気にぴったりな和やかな空気が流れました。

e-Paletteのサービス開発担当・トヨタ自動車九州の宮本聡さん。
e-Paletteはトヨタ自動車が開発した、さまざまな用途に使えるバッテリーEVです。トヨタ自動車九州でe-Paletteのサービス開発担当とクルマ開発DX 促進グループマネージャーを兼任する宮本聡さんはこう語ります。
「e-Paletteは人だけでなく、“コト”や“サービス”も運びたい。しかし、それらをどうやってお客さまに届けるかは未知数。そのため、京都・北山というフィールドをお借りして、その可能性を検証させていただきました。」
そもそもの縁は、福岡県宮若市にある宮田工場から。e-Paletteを同工場の中で活用することになり、宮本さんと京都の商店街組合「KICS」が出会いました。2024年1月から4月にかけて、e-Paletteに京都の老舗店の商品を乗せ、従業員向けに販売していたのです。そのラインナップは原了郭の黒七味、福寿園の日本茶、鍵善良房の和菓子、桝悟の京漬物など。「とても好評でした。もう大丸京都店みたいだね、という声もあったくらいです」と宮本さんは笑います。
今回のプロジェクトの始まりは「KICS」が宮本さんに北山街商店街を紹介したこと。2024年の冬以降、「地域とつながる持続性」を最優先に掲げた議論が重ねられてきました。

地域でe-Paletteを使った実証実験が行われるのは、トヨタグループの中でも数えるほどしかなく、前例がないことばかりで、企画がなくなりかけたこともあったそうです。宮本さんは「それでも前に進めたのは、公文さんの『地域と持続的につながりたい』という想いへの共感があったからです。」と振り返りました。
今回の実証実験の成果は、トヨタ自動車九州が開発した地域体験サービス「Koto.」をはじめ、さまざまなデータを通じて検証されます。トヨタ自動車九州は来訪者の動線データをもとに、人の流れやエリア内の回遊状況を分析。今後のエリアマネジメント活用を目指しています。

京都府立植物園の副園長・小林正典さん。
今回のイベントの舞台となった京都府立植物園は2024年に100周年を迎えた、日本で最も古い公立植物園です。副園長の小林正典さんは「私たちの使命は、植物を保存、育成すること。そして次の100年間に向けて、植物の命をつなげていくことです」と語ります。
例えば、社寺の桜の苗木を預かり、園内で育てる。苗を分散させることによって、命を次の世代へ確実につなぐ。これも、植物園の大切な役割です。

植物園を訪れる人の多くはシニア層。近年の課題は、幼少期の遠足以来、足が遠のいてしまっている若い世代をどう引き込むか。
小林さんは「次の100年へと続けるためにも、若者層に興味を持ってもらいたい。お出かけの選択肢のひとつが植物園になれば」と話します。植物園は近年、民間企業と連携し、体験イベントやマルシェを展開。今回の実証実験では、京都精華大学が主催するプロジェクションマッピング、能楽師によるワークショップなどが開催されました。

京都府立植物園の長い歴史の中で、園内を車が走ることはほとんどなかったそうです。
「e-Paletteはかわいらしく、未来を感じさせるワクワク感がありますね。今日は子どもたちの人気者でした。いつか園内をe-Paletteで移動できたら、子どもたちがもっと喜んでくれそうですね」と、小林さんは感想を語りました。

トヨタ自動車九州の宮本さんは今回のイベント開催にあたり、1カ月間ほど九州を離れ、京都に滞在したのだそう。そしてプロジェクトをこう振り返ります。
「お客さまに喜んでいただけたこともうれしかったのですが、何より意外だったのは、関わった事業者の皆さんも楽しまれていたこと。温かな気持ちに包まれた24日間で、京都の人たちとワンチームになれた感覚が、何よりの収穫でした。」
その理由はきっと、広告代理店やイベント運営会社を介さない、補助金にも頼らない、手作りのプロジェクトだったからでしょう。行政や企業、大学生、ショップの人たちと顔を合わせ、想いを伝え合うことで、一つひとつのイベントが形になっていきました。

京都北山街商店街・理事長の公文さんはe-Paletteを誘導するため、園内を奔走。大丸京都店のスタッフは参加者の受付や、オンライン工場見学の司会進行を担当。京都府立植物園の小林さんは、花にカメラを向けるお客さまに「こちらの角度から撮るのもおすすめですよ」と気さくに話しかけていました。関係者それぞれが現場で役割を担いながら、イベントを支えていたのです。
桜の花が満開になる頃、24日間にわたる「北山エリア活性化実証実験」は幕を閉じました。京都北山街商店街、トヨタ自動車九州、大丸京都店、京都府立植物園に共通した想いは “つなぐこと”と“続くこと”。街のにぎわいも、子どもたちの学びも、植物の命も、人から人につなぐことで、続いていく。北山の春は、その“次”へ向けた、静かな起点といえるでしょう。

だいまるきょうとっこがくえん
公式ウェブサイトhttps://kyotokko-gakuen.dmdepart.jp/