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伝統を守るだけでなく、鳴らし続ける。世界で評価される東海楽器のエレキギター

伝統を守るだけでなく、鳴らし続ける。世界で評価される東海楽器のエレキギター

静岡県浜松市

    2026.04.10 (Fri)

    目次

      世界有数の楽器の街として知られる浜松市で、エレキギターを長年作り続けてきた東海楽器製造株式会社。職人による手仕事と伝統的な製法を大切にしながら、新しい素材や発想にも挑戦する姿勢は、同社の「Old and New」というコンセプトに象徴されています。世界でも評価されるTokaiギターは、どのようにして生まれているのか。浜松の工場を訪ね、その現場に流れる思想と職人技を追いました。

      音楽の街・浜松で生まれた、秀逸の国産エレキギター

      浜松は、徳川家康公の時代に城下町として職人文化が育まれ、天竜地域の豊富な木材資源や温暖で湿度の低い気候など、楽器づくりに適した環境がそろっていました。明治時代には、山葉寅楠氏が日本初の国産ピアノを製造。やがてヤマハや河合楽器製作所、ローランドなどのメーカーが本社を置く、世界的な楽器産業の集積地へと発展していきました。

      そんな楽器の街・浜松で、国産エレキギターの草分け的存在となったのが、東海楽器製造株式会社(以下、東海楽器)です。広報担当の丸山翔さんは、同社の始まりをこう語ります。

      「当社はもともと、ピアノやハーモニカなどリード楽器の研究開発を行う『東海楽器研究所』としてスタートしました。転機になったのは、1960年代のギターブームです。当時の音楽シーンの高まりを背景に、1965年にクラシックギター、1968年にはエレキギターの製造を開始しました。」

      個性的な曲線を持つソリッドボディのモデル「ハミングバード」。この一本から、東海楽器のエレキギターづくりが始まりました。

      その後、1970〜80年代のバンドブームを背景に、Tokaiギターは本格的に広がっていきます。浜松のものづくり文化の中で育まれた技術が、やがて世界で評価される国産エレキギターへと発展していきました。

      “高次元のコストパフォーマンス”を追求した60年

      東海楽器のギターづくりを語るうえで欠かせないのが、「値段以上によいモノをつくる」という考え方です。1960年代にエレキギター製造を開始した同社は、ギター黎明期の伝統的な製法を大切にしながら、精度の高い日本製エレキギターを追求してきました。学生でも手に取れる価格帯も持ちながら、音も形も妥協しない。Tokaiギターは“価格以上の品質を持つギター”として認知され、代表的な「LSシリーズ」や「STシリーズ」は、多くのギタリストに支持されてきました。

      「私たちはヴィンテージギターを、その時代の技術、価値観、素材の選び方が凝縮された文化財のような存在だと捉えています。規模や生産数は決して多くありませんが、高品質なギターを量産する技術を磨き、価格はできる限り抑える努力を重ねてきました。」

      一方で、東海楽器は新しい素材や発想にも挑戦してきました。その象徴が、1983年に誕生したアルミボディの「TALBO」です。アルミニウム合金ボディによる、硬質できらびやかな高音域と速いレスポンスが特徴のエレキギターです。

      中央に置かれているギターが、アルミニウム合金を使用して制作された「TALBO」。

      2024年には、東海道新幹線の廃車アルミ材を再利用した「Re:A-700 TALBO」を発表。新幹線カラーのデザインも話題となり、限定60本は発売からわずか5分で完売しました。

      長年培ってきた製法や職人技を受け継ぎながら、新素材や新しい発想を取り入れていく。それが東海楽器のコンセプト「Old and New」です。伝統を守りながら、新しい音も生み出し続ける。その両立こそが、60年以上続く東海楽器のギターづくりを支えてきました。

      美観と音を最優先。受け継がれる職人技

      現在の製造現場は、もともと社員寮だった建物を活用しています。決して大規模な工場ではありませんが、職人たちはここで一本一本のギターと向き合い、製作に集中しています。

      木工から塗装、組み立てまでを同じ空間で行う一貫工程。NC加工機の導入による精度の高い加工と、長年受け継がれてきた治具による手作業の調整。さらに膠(にかわ)による接着や樹脂バインディングの手仕上げなど、細部まで丁寧な工程が積み重ねられています。

      塗装後には、穴内部の塗料を取り除いたり、下穴を拡張して塗膜割れを防いだりと、完成後には見えない部分にも手間を惜しみません。わずか1ミリにも満たない誤差が、美観や音に影響するからです。こうした製造哲学を、東海楽器は自ら「非効率製造主義」と呼びます。

      「ギターづくりは数値だけでは語れません。木材の響き方やネックの握り心地など、五感で感じる部分がとても大きいんです。木材は自然素材である以上、一つとして同じ個体はありません。だからこそ職人たちは、音や手触り、わずかな振動の違いを感じ取りながら作業を進めます。」

      「ベテランは、その個体差の範囲や傾向を経験から理解しています。それを実際のギターを前に共有し、議論しながら次の世代に伝えていきます」

      効率だけを求めれば、もっと簡単な方法もあるかもしれません。それでも東海楽器がこの作り方を守り続けるのは、丁寧な手仕事の積み重ねこそが、ギターの音と美しさを生み出すと信じているからです。

      仕事より“好き”が勝つ。現場にあふれるギターへの愛情

      東海楽器で受け継がれているのは、技術だけではありません。若い職人たちが育つ現場には、ギターそのものへの深い愛情があります。

      「製造工程の基本は先輩から教わりますが、それは絶対的なマニュアルではありません。あくまで一つの方法として受け止め、自分なりの改善点を見つけ、より精度の高い仕事を模索していきます。」

      そんな姿勢が自然に育つ環境が整えられ、若手の職人たちは「次の東海楽器は、自分たちが作る」という意識を、当たり前のように持ちながら作業に向き合っています。

      工房に一歩足を踏み入れると、職人たちは黙々と作業を続けています。限られた時間の中でスピードも求められ、品質への妥協も許されない仕事。それでも、どこか楽しそうに見えるのが印象的です。目の前の一本に集中し、ギターづくりに没頭する姿からは、仕事以上の情熱が感じられます。その象徴とも言えるのが、木材の研磨作業。ボディやネックの基本となる工程で、最終的な仕上がりにも大きく影響します。職人としての第一歩であり、いわば登竜門のような作業です。

      「ギター職人として続けられるかどうかは、結局ギターへの愛情だと思います」という丸山さん。目の前の一本に情熱を注ぎ、触覚、視覚、聴覚、嗅覚といった五感を総動員して改善点を探る。その積み重ねが、よりよいギターを生み出していきます。

      1980年代のカタログには、当時の職人たちが手書きで記した製造工程が残されています。そこには、一本のギターをよりよくしたいという思いが詰まっていました。技術だけではなく、職人たちのギターへの愛情と情熱こそが、東海楽器の原動力なのです。

      世界が気づいたTokaiギターの価値

      東海楽器のギターは、近年海外でも大きな注目を集めています。きっかけとなったのは、約10年前。海外の著名ミュージシャンやコレクターの間で品質の高さが評価され、その評判が一般のプレイヤーにも広がっていきました。

      特に再評価が進んだのが、1970年代から80年代にかけて製造された国産エレキギターです。Tokaiギターの「LSシリーズ」などは代表的なモデルとして知られ、国内では十数万円だった個体が、海外市場では数十万円から100万円近い価格で取引される例も出てきました。社内でも、自社の過去製品が当時の定価を大きく上回る価格で取引されていることに驚きつつ、長年続けてきたものづくりの方向性が間違っていなかったことを実感しているといいます。

      「海外のプレイヤーはブランドよりも、実際に手に取った時の反応で判断します。触った瞬間の鳴りや弾き心地で選ばれることが、評価の本質だと思います。」

      現在、Tokaiギターは特にヨーロッパを中心に高い評価を受けており、近年は他の地域でも取引先が増え、2026年には北米市場への本格的な再進出も決まりました。2025年には世界最大級の楽器ビジネスショー「NAMM Show」にも出展し、世界のプレイヤーやバイヤーから大きな関心を集めています。

      長年積み重ねてきたものづくりが国境を越えて評価され始めた今、Tokaiギターは世界のステージでも新たな存在感を放ち始めています。

      「メイド・イン・ジャパン」を守り、未来へとつなぐ

      海外で高い評価を受け、国内では中高年を中心に根強いファンがいるTokaiギターですが、若い世代にはまだ十分に知られていないという現実もあります。現在は極端に安価なギターも数多く流通しており、最初に手に取る選択肢も大きく変わってきているからです。

      「個人的には、日本の若い人たちにもっと使ってほしいと思っています。次の世代にギター文化をつないでいくためには、絶対に必要なことですから。」

      そう熱く語る丸山さんの言葉からは、Tokaiギターを愛する人だからこその強い思いが伝わってきます。

      海外メーカーの品質は年々向上し、日本製だからという理由だけで評価される時代ではなくなりました。人件費や加工費の上昇により、日本製の楽器は決して安価な製品でもありません。それでも、Made in Japanに誇りを持ち、品質と価格のバランスを追求してきた自負が東海楽器にはあります。

      「だからこそ、今の評価にあぐらをかくことはできません。これからも品質や技術を磨き続けて『Tokaiギターはやっぱりいい』と言ってもらえるものを作り続けたいと思っています。」

      東海楽器が大切にしてきた「Old and New」。伝統を守るだけでなく、鳴らし続ける姿勢。それはまさに、Made in Japanの精神です。ギターへの限りない愛情と飽くなき探求スピリットが続く限り、Tokaiギターの進化は止まりません。

      東海楽器製造株式会社

      公式ウェブサイト(外部サイトに移動します)https://tokaigakki.com/