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庶民の味を守り、文化を継ぐ。創業約100年・山田餅本店の餅づくり

庶民の味を守り、文化を継ぐ。創業約100年・山田餅本店の餅づくり

愛知県名古屋市

    2026.05.20 (Wed)

    目次

      自動車産業をはじめとして“ものづくりの街”として知られる名古屋。その土地には、いわゆる製造としてのものづくりだけでなく、日々の暮らしを支える食文化にも、手間を惜しまず品質を守る精神が根づいています。1927年創業の山田餅本店もまた、餅づくりを通して、庶民の味と日本の文化を守り続けてきました。草餅や大福餅、名古屋の郷土菓子・鬼まんじゅうなど、一つひとつに名古屋らしい実直な姿勢が息づいています。

      庶民の味を守り続ける、創業約100年の餅屋

      1927年創業の山田餅本店。

      山田餅本店は山田米蔵さんが1927年に名古屋市昭和区に創業。その後、現在の瑞穂通商店街に移転し、現在は三代目の山田克哉さんが後を継いでいます。

      「祖父の米蔵がパン屋での修行を経て、パンとお餅の店を開業し、父の代で洋菓子と和菓子を提供するようになりました。私は、他社での修行を経て家業に入りました」と、克哉さんは振り返ります。

      「祖父の時代は甘いものはなんでも売れ、父の時代も高度経済成長期でいい時代でした。私が継いでからはデフレが進み、消費者もいいものを吟味して選ぶ時代でね。和菓子も、いちご大福や水まんじゅうが登場し、変革の時期でした。」

      時代ごとの需要に応じて形を変えながらも、山田さんは“餅と和菓子”という代々続く本質に改めて向き合ったのだといいます。

      季節の和菓子が並ぶ店舗。

      店頭には、定番の鬼まんじゅうや草餅に加えて、四季折々の和菓子が常時20種から30種ほど並びます。季節の移ろいを日常の中で感じられることも、和菓子の魅力の一つ。

      克哉さんは和菓子づくりについて「米や小麦、それに砂糖。材料はシンプルなのに、人間の手にかかるといろんなものに変わるのが面白い」と語ります。シンプルな組み合わせでその季節を表現し、旬を最大に味わえる和菓子は、奥深い日本の文化なのです。

      手仕事が支える、日常に根づく素朴な味

      山田餅本店の定番である草餅と鬼まんじゅうは年中提供する安定の素朴な味わいです。毎朝、工場には臼と杵で餅をつく音が響きます。

      山田餅本店では、一臼ずつ杵で丁寧に餅をつき、つきたてをお客様に提供。杵と臼で使ってつくことで、柔らかく腰が強い、粘りある餅ができるそうです。

      山田餅本店の草餅(右)と鬼まんじゅう(左)。

      杵で餅をつく音が工場内に響き渡る。

      「お餅は正月に食べるものだから、いいお餅を提供しなくてはいけない。それにはもち米が大切だ」との先代の教えを大切に今も、もち米は妥協せずいいものを使っています。

      「東北のお米がおいしくてね、古くから付き合いのあるお米屋さん厳選のもち米をついています。」

      毎日変わらぬ工程を積み重ね、代々伝わる品質をしっかりと守る姿勢は、名古屋のものづくり文化にも通じます。

      餅を伸ばし素早く丸める職人技。

      ついた餅は、のし餅にしたり、和菓子にしたり。よもぎを入れてついた餅を素早く丸めて伸ばし、あんこを包むと、草餅が完成。無駄のない見事な職人技に見惚れているうちに、ぷっくりと丸くツヤツヤと輝く草餅が、次々と出来上がります。

      草餅は、よもぎの香りと穏やかな甘さが特徴。特別ではなく、日常のおやつとして親しまれてきた味わいなのです。

      草餅は国産もち米、国産小豆で作られている。

      鬼まんじゅうは、名古屋の農家のおやつとして親しまれてきた素朴な菓子です。こちらも特別な高級菓子ではなく、日常に寄り添う味。その姿勢は、実直さを重んじる名古屋らしさとも重なります。

      角切りのサツマイモに砂糖を絡める。

      角切りにした金時芋に砂糖と小麦を混ぜ、団子状にしてせいろでしっかり蒸す。

      工場内にはもくもくと水蒸気が上がりほんのりと甘い香りが漂う。

      大量の金時芋の皮を剥くところからスタートする鬼まんじゅう。手際よく協力し合いながら丁寧に作られる工程には、従業員らの連携と職人技が光ります。

      サツマイモの味わいを楽しむ、鬼まんじゅう。

      「庶民の味を突き抜け過ぎないようにしています。料理で例えるなら高級フレンチではなく、おうちで食べる家庭料理の味ですね。」

      山田餅本店が守るのは、特別な贅沢ではなく、日常にあり続ける価値なのです。

      暮らしと名古屋のものづくり精神をつなぐ

      「餅は日本の文化そのもの」だと克哉さんは言います。

      お正月の鏡餅、ひな祭りのひし餅。お花見にはお花見団子、お彼岸やお盆におはぎなど、季節ごとにさまざまな餅があります。季節だけでなく、誕生祝いや新築のお祝いなど、人生の節目にも餅を食べる風習もあります。いわば餅は、日本人の生活とともにある文化なのです。

      餅屋を続けていくということは、この日本の文化を継承していくことに他なりません。こうした文化を大切に守りつなぐ営みが認められ、2025年、克哉さんは厚生労働省から「卓越した技能者(現代の名工)」として表彰されました。

      山田餅本店は3年前、名古屋の鶴舞公園・ツルマガーデンに、カジュアルでおしゃれに和菓子を楽しめるテイクアウト専門店・もちはもちやをオープン。若い世代にも和菓子文化を届ける、新たな形を模索しています。

      「お彼岸などの日本の季節の行事を知らない若い人が増えてきたんですよね。でも、餅は日本の文化。この文化を伝えていきたいですね。」

      日本人が大切にしてきた文化をこれからもずっとつなげられるよう、継承者としての自覚と責任を持ち、形を工夫しながらあらゆる世代へ響くように挑戦し続けています。

      工程を守り、品質を守り、日常に寄り添う。山田餅本店の餅づくりには、名古屋が育んできた“ものづくり”の精神が息づいています。庶民の味を守り続けること。それは、日本の暮らしの文化そのものを未来へつないでいくことでもあるといえそうです。

      山田餅本店

      公式ウェブサイト(外部サイトに移動します)
      https://yamadamochihonten.co.jp/