千葉県千葉市
2026.07.08 (Wed)
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日本の落花生生産量で圧倒的1位を誇る千葉県。2026年は、県に落花生栽培が導入されて150年の記念すべき年でもあります。そんな千葉県で、全国的にも珍しい落花生の自然栽培に取り組む農園があります。異色の経歴から新規就農した二人。その熱意と、挑戦に迫ります。

落花生の苗。千葉県では5月から6月末ごろに種を蒔き、約120日後、9月から10月に収穫期を迎える。
JR土気駅から自動車を走らせること15分ほど。窓の外にはとうもろこし畑や酪農牧場、緑豊かな森。ひときわ深い木々を抜けた先に、あんばい農園の圃場はあります。
この日は台風一過の青空。昨日まで雨が降っていましたが、畑の土はふかふかと柔らかい状態。この水はけの良さも、この地に落花生栽培が根差した理由の一つです。
あんばい農園は名産地・千葉でも珍しい、落花生専門の農家。代表の梅津裕一さんと、PR担当の三本木絵未さんが共同で経営しています。

左からPR担当・三本木絵未さん、代表・梅津裕一さん。
代表の梅津さんの前職は理科教員。体調不良をきっかけに移り住んだ千葉にほれ込み、2018年に新規就農しました。“一つのものに集中して極めたい”。そんな思いから、落花生専門の農家に。こだわりは、化学肥料や農薬、堆肥を一切使わない自然栽培です。
子どものころから自然や生き物に夢中だった梅津さん。農業を生業にするなら、環境に寄り添ったスタイルで取り組みたい。そんな思いから、挑戦が始まりました。

「落花生栽培を選んだのは、千葉県を代表する作物だから、というのが理由の一つ。そしてもう一つは、落花生が自ら栄養を作り、土を豊かにする力を備えた植物だということ。自然栽培に挑戦するならぴったりだと考えたんです」と梅津さんは話します。

自然栽培の落花生農家は全国でもほとんど例がありません。始めた当初は、周囲の農家にも驚かれたといいます。手作業での種まきや収穫、こまめな草取り……非常に手間がかかりますが、「そこからしか得られない何かがある」と、梅津さんは笑います。
「僕にとって落花生は、生き物として非常に面白い存在です。地中から芽吹き、地上で花が咲いたあと、わざわざ土の中に戻って実を結ぶから“落花生”、植物生存戦略としては一見すると無駄が多いように感じられます。でも、その特異な生き様に魅力を感じます。手がかかる作物ですが、研究をするように毎年仮説を立てて、試行錯誤しながら栽培に取り組んでいます。」
唯一無二のスタイルで、まっすぐに土に向かっていく落花生。その姿は「マルチタスクよりもシングルタスクが得意なんです」と語る梅津さんの姿勢にも通じるものを感じます。

落花生の花。花は1日でしぼみ、「子房柄(しぼうへい)」という管のような器官を伸ばし、地中に潜っていく。
PR担当・三本木さんも県外からの移住者で、千葉に暮らして10年。「千葉の人の、オープンな気質が大好きです。もともと開拓地の歴史を持つ土地なので、外から来た人間にも優しいのかもしれません」とその魅力を語ります。

三本木さんは、NPOや料理人、ウェブデザイナーの経験を経て、梅津さんとともに落花生農家の道へ。農家がいいものを作っても、うまくアピールできなければ消費者に届かない。そんな課題意識から始まり、あんばい農園ではブランディングや商品づくりを担っています。
まったく異なる経歴の二人。落花生に向けるまなざしも、それぞれに違います。
「僕は落花生に“生き物”として魅力を感じている。一方で、三本木は“食材”としてのポテンシャルに注目しています。興味のベクトルが違うが故によく意見もぶつかるのですが、その違いこそが、農園の可能性をいっそう広げていると感じます」と梅津さん。

たとえば、農園オリジナル商品「ぴな粉」。ピーナッツオイルの製造の際、通常なら廃棄される搾りかすから作られたピーナッツパウダーです。当初、梅津さんは商品化に反対していたそうですが……。
「サンプルを開けた瞬間、ピーナッツのいい香りが広がって。“いける!”と確信しました」と三本木さんは振り返ります。商品化を果たした「ぴな粉」は、千葉市の食のブランド「千」にも認定されました。
「あんばい農園のピーナッツオイルの搾油率は3割。残り7割が活かせないとなると、当初製造を目指していたオイル自体の製品化も難しかったと思います」と三本木さん。「料理の現場経験に裏打ちされた彼女の直感が、落花生を新しい形へと導いたのだと思います」と梅津さんも頷きます。
梅津さんは、「それぞれが積んできたユニークなキャリアを生かせる農園にしていきたい。お互いの意見を“いい塩梅”ですりあわせながら、いろいろなことにトライしているんです」と続けます。

現在、あんばい農園の製品は3種類が「千」に選出されています。千葉市の「千」と、「千年先まで続く」という思いを込めた地域ブランドは、農園の理念にも通じます。
「落花生の名産地である千葉市に選んでいただいたことに、とても大きな意味を感じます。農園にとっても誇りですし、地域貢献にもつながると考えています」と語る梅津さん。
それぞれの道を経て、落花生にたどり着いた梅津さんと三本木さん。落花生の魅力を楽しそうに語る姿も、印象的でした。そんな二人の熱意と探究心は、その可能性をこれからも広げ続けていくことでしょう。

あんばい農園で育った落花生を実際にいただくと、香ばしく豊かな風味に驚きます。噛むほどに甘味を感じ、渋皮にもまったくエグみがありません。その品質の高さに、お二人の丁寧な手仕事が感じられます。

あんばい農園で収穫された品種「Qなっつ」。千葉県が開発した新品種です。他の落花生と比べてショ糖の含有量が多く、特に甘味を感じやすい品種なのだそう。
一般的に、加工品はそのままでは出荷しにくい規格外品が原料になることも少なくありません。しかしあんばい農園では、すべて高品質な「A品」を原料に使用しています。そこには「丁寧に作られたおいしいものを食べたい」という消費者の声に応えようとする二人の思いがありました。
「もちろんコストはかかりますが、そういう農園があってもいいと思うんです」と三本木さん。
「僕らの使命は、落花生を食べる文化を絶やさないことと、それを豊かにしていくための選択肢の一つになること。誰が、どんな畑で、どう育てたのか、知った上で選びたい。そんな人たちにとっての選択肢でありたいと思います」と梅津さんも続けます。
あんばい農園が蒔いた落花生文化の種は少しずつ芽を伸ばし、今では千葉県内のみならず全国にも届き続けています。

「Qなっつ」100%で製造されたピーナッツペーストは、砂糖なしでも自然な甘味が広がります。

8年前、1区画から始まったあんばい農園。梅津さんと三本木さんの試行錯誤が実を結び、その規模は少しずつ大きくなっていきました。「落花生と同じですね。手間をかけながら、地道に、地道にやってきました」と梅津さん。
商品開発に加え、圃場を教室にした「農業体験」も、目指したい形の一つ。
「ピーナッツは身近な食材であるにもかかわらず、落花生がどのように育つのか、多くの人は知らないでしょう。自分たちが食べているものがどうやって生まれるのか、知る体験には価値があります。元教員として、農園を“学びの場”として提供できるようにしたい。今後、実現を目指していけたら」と梅津さん。
花を咲かせ、土の中でゆっくりと実をつける落花生のように。あんばい農園の挑戦もまた、千葉の土に深く根を張りながら、これからさらに豊かな実りを迎えていくはずです。
あんばい農園
公式ウェブサイト(外部サイトに移動します)
https://anbai0602.com/