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「夢シルク」が育てる都市近郊農業の未来、大阪をサツマイモの産地に

「夢シルク」が育てる都市近郊農業の未来、大阪をサツマイモの産地に

大阪府八尾市

    2026.08.28 (Fri)

    目次

      大阪は古くから「食い倒れの街」と言われ、今も豊かな食文化が息づく土地です。一方で、その食を支える農業の存在は、意外に知られていないかもしれません。大阪の都市近郊で、サツマイモのブランド「夢シルク」の栽培に取り組むのが、株式会社オオサカポテトの代表を務める渡邊博文さん。会社員から新規就農を果たした渡邊さんの挑戦と「夢シルク」に込めた思いに迫ります。

      近郊から都市へ。大阪の食を支える農業の今

      大阪市内から電車で30分ほど。八尾市は大阪のベッドタウンとして発展してきた地域で、人口は25万人以上を数えます。大阪市中心部へのアクセスの良さから、近年は子育て世代の移住も盛んです。

      そんな八尾市の住宅地に囲まれるように、渡邊博文さんの手がけるサツマイモ畑が広がっています。

      「ここは都市部にひもづく農業が根付いてきた地域。大きな消費地に、鮮度のよい食材を届けられるのが強みです。お米も作られていますし、枝豆や若ごぼうはこの辺りの特産なんですよ」と渡邊さん。

      一方で、都市部に近い地域ならではの課題もあると続けます。

      株式会社オオサカポテトの代表を務める渡邊博文さん。

      「農地が1反(約300坪)程度の小規模農家がほとんどで、効率化が難しいのが実情。後継者不足も深刻で、休耕田や耕作放棄地が年々増えているんです。そんな現状をなんとかしたくて、空いている農地を活用してサツマイモを育てています。」

      「夢シルク」を育てる畑の周囲を見渡すと休耕田や耕作放棄地が点在する。

      小さな農地が点在し、担い手が減っていく地域で、どうすれば畑を次の世代へ残せるのか。「夢シルク」の取り組みは、その問いと向き合うところから始まりました。

      週末農業から専業へ

      以前は広告代理店に勤務していたという渡邊さん。名古屋から大阪に転勤したことが、農業に興味を持つきっかけになったといいます。

      「名古屋にいた頃はラグビーやサーフィンが趣味だったのですが、大阪にはラグビー仲間もおらず、海も遠い。この機会に新しい趣味を作りたいと思っていたときに出会ったのが、農業をテーマにしたアニメでした。おいしそうな野菜のシーンを観て、自分もやってみたいなと。SNSで大阪の農家さんを調べて、手当たり次第にメッセージを送りました。」

      八尾市内の貸農園で最初に育てたのは、採れたてがおいしいトウモロコシでした。初挑戦で100本もの収穫があり、ご近所にも配り歩いたことが、渡邊さんの就農の原点となります。

      「作り過ぎてしまったので、近所の方にトウモロコシを渡したところ、すごく喜んでくださって。中にはお金を払ってくださる方もいました。それまで広告という無形のものを扱っていたので、自分で作った有形のものが誰かに届くことはすごくうれしかったですね。」

      自分の手で育てたものが、目の前の人に届き、喜ばれる。広告の仕事とはまた違う手応えが、渡邊さんを畑へと引き寄せていきました。

      週末の畑通いは、やがて地域の人たちに向けた収穫体験へと広がります。そこで見えてきたのは、土に触れる機会を求める人がいる一方で、その受け皿となる畑が減っている現実でした。

      「畑に来てくれる人の中には、保育園や幼稚園で毎年実施していた芋掘り遠足ができなくなって困っていたという方もいました。収穫体験のニーズは高いのに、農園は姿を消しつつあります。後継者不足は大きな課題ですが、都市部に住みながら農業に興味を持つ人は多いですし、『貸したい』という地主さんもいる。小さな農地でも数多く集約すれば、都会でも大規模な農業を営むことが可能なのではないかと考えるようになりました。」

      畑を守ることと、生活者に開くこと。その二つを両立する方法を、渡邊さんは探し始めます。

      「夢シルク」に込められた思い

      トウモロコシにはじまり、ナス、ほうれん草など、さまざまな作物に挑戦した渡邊さん。専業農家になる決意をし、育てることにしたのはサツマイモでした。大規模な栽培がしやすく、収穫体験でも不動の人気を誇っていたことが決め手だったといいます。

      栽培する品種は、上品な甘さとなめらかな口当たりが特徴のシルクスイート。その選択にも、渡邊さんならではのこだわりがありました。

      「どうせやるなら、将来的に大阪が産地として認知されるような品種にしたかったんです。サツマイモにはさまざまな品種がありますが、紅はるかは茨城県、鳴門金時は徳島県といったように、すでに品種と産地が結び付いているものが多い。シルクスイートはポテンシャルが高い品種でありながら、まだ主産地がありませんでした。」

      農家としての道を歩み始めた渡邊さんは、シルクスイートに「夢シルク」と名付け、地域ブランド化を図っていきました。

      「大阪をサツマイモの産地にしたい。耕作放棄地をなくし、子どもたちの体験や食を豊かにしたい。そんな“夢”から生まれたシルクスイートなので、『夢シルク』という名前にしました。ちゃんとおいしいものをお届けすること、地元農業の発展のために取り組み続けるという決意を、ブランド名に込めたんです。」

      「夢シルク」は、一つのブランド名であると同時に、大阪の畑をもう一度動かしていくための旗印でもあります。

      地域の特性に合わせた土づくりの知恵

      大阪の農地は、もともと田んぼだったところも多く、サツマイモ栽培に適しているとは限りません。そこで渡邊さんが研究を重ねたのが、土づくりでした。鹿児島県や徳島県、茨城県といった著名なサツマイモ産地の農家を直接訪ね、現地の栽培法を渡邊さん自身の目で確かめながら、大阪の土地に合った方法を模索していきました。

      「サツマイモは砂地で育つイメージが強いですが、産地の農家さんでも田んぼを転用してサツマイモを育てているケースもあります。インターネットで手軽に情報が手に入る時代ですが、現地に行って初めて知ることもたくさんありました。」

      試行錯誤の末、たどり着いたのは緑肥栽培と竹炭を組み合わせた栽培法でした。緑肥栽培とは、植物を土壌にすき込んで、次に栽培する作物の土づくりに生かす方法です。

      渡邊さんの畑では、サツマイモの収穫後にヒマワリを植えています。根の深いヒマワリは土地の水はけを良くする働きもあり、サツマイモを育てやすい環境づくりにも役立っているそうです。

      さらに、大阪唯一の村である千早赤阪村の竹炭を土に混ぜ込むことは、「夢シルク」のブランド条件にも組み込まれています。竹炭に含まれる豊富なミネラルは、土の中にいる微生物を活性化させ、ふかふかな土をつくる効果があるそうです。

      「近隣には放置竹林が増えていて、そのままにしておくと土砂災害や生態系破壊のリスクが高まります。地域の埋もれた資源を活用することで、社会課題の解決にもつながる。そんな循環型農業をやりたいと当初から考えていました。」

      上品な味わいを生み出す熟成の工夫

      サツマイモ本来の甘さを引き出すのに欠かせないのが、収穫後の熟成です。

      「夢シルク」は30日以上の熟成期間を経て出荷されます。温度・湿度管理を徹底しながら熟成することで、サツマイモに含まれるでんぷんが糖に分解され、甘くなめらかな味わいになるのです。

      1棟では足りなくなった収蔵庫。最近2棟目(写真右)が増設された。

      渡邊さんの畑のすぐそばには、サツマイモ専用の収蔵庫が建てられています。インタビュー中も、スタッフの方々による品質チェックと仕分けが休みなく行われていました。ところが、この環境は最初から用意されていたわけではありません。

      「熟成のことは知っていたのですが、十分な設備を準備する余裕はありませんでした」と渡邊さんは当時を振り返ります。

      「夢シルク」のおかげで地域の人々の雇用も生み出されている。

      「初年度に4トンのサツマイモを収穫したのですが、出荷するまでの行き場がない。やむを得ず、自宅マンションにビニールシートを敷いて熟成することにしたんです。2年目は知人を頼って骨組みだけが残る倉庫をなんとか確保したのですが、設備は十分ではありませんでした。芋の状態を保つには冬場も13度以上の温度を維持する必要があるので、手作業で壁を作り、夜通し暖房をつけていましたね。」

      当時、渡邊さんのもとには学生時代からの友人を中心に5人の仲間が集まっていました。全員がボランティアでの参加で、将来は専業農家になることを目指していましたが、想像以上の忙しさの中で葛藤もあったといいます。

      スタッフの仲がよいのも株式会社オオサカポテトの大きな特徴。

      「時間と労力をかけても、結果が出ない。仲間同士の雰囲気がどんどん悪くなっていった時期がありました。私自身は友達のままの感覚だったので、どこか甘えがあったのだと思います。作業が思うように進まなかったあるとき、メンバーの一人から『代表が覚悟を持たなくてどうする』と言われたことで、組織としてどうあるべきかを本気で考えるようになりました。」

      夢を追うだけではなく、現実をどう築き上げていくのか。栽培・熟成のノウハウを手探りで積み重ねながら、渡邊さんのプロとしての意識も徐々に固まっていきました。

      サツマイモ栽培を広め、大阪の豊かな農業を次世代へ

      「夢シルク」は大阪府内のスーパーや焼き芋店で販売されているほか、飲食店のメニューや、芋焼酎「阿呆-ahou-」などの素材として使われています。規格外品を活用したサツマイモペーストや菓子類など、加工品の開発にも意欲的です。

      「地元を中心に販売することで、状態のよいものをお届けすることができます。価格や品質に妥協せず、高品質なサツマイモを安定して届けることを何より大切にしています。」と渡邊さん。

      「夢シルク」の生産は八尾市に限らず、パートナーとなる農家を増やしながら大阪全土に広げたいと、力強く語ります。

      「現在、私たちが手がける『夢シルク』の農地は約7ヘクタール。誰もが知るサツマイモブランドである鳴門金時の農地は1,000ヘクタールほどなので、いずれはこの数字に追いつきたいと考えています。高品質を保ち、周りの農家さんとも協力しながら、大阪といえば『夢シルク』と言ってもらえるようになりたいですね。」

      一人の会社員の趣味から始まった「夢シルク」の挑戦は、これからも大阪の地に根を張りながら、少しずつ広がっていきます。

      夢シルク

      公式ウェブサイト(外部サイトに移動します)
      https://yumesilk.studio.site/

      オオサカポテト

      公式Instagram(外部サイトに移動します)
      https://www.instagram.com/osakapotato/

      渡邊博文(株式会社オオサカポテト 代表取締役)

      公式Instagram(外部サイトに移動します)
      https://www.instagram.com/hirofumi_osakapotato/