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変わる街で、変わらずつくる。蔵前とMAITOのものづくり

変わる街で、変わらずつくる。蔵前とMAITOのものづくり

東京都台東区

    2026.10.05 (Mon)

    目次

      江戸時代には米蔵を中心に栄え、その後は問屋や町工場が集まる街として発展してきた東京・蔵前。近年ではカフェやさまざまな専門店も増え、街を訪れる人の目的も多様になってきました。そんな街にアトリエショップ・MAITOを構えるMaito Design Worksは、草木で染めた糸や生地を、衣服や服飾小物に仕立てています。

      MAITOを営む小室真以人さんが、この街に拠点を構えたのは2012年。以来、蔵前の変化を見てきました。小室さんの言葉から、ものづくりに携わる人が集まる街の変化と現在をたどります。

      草木染めを、自分のものづくりへ

      京都府・丹後で、織物に関わる家系に生まれた小室さん。小室さんの家系は、江戸時代には丹後ちりめんを扱い、生地を染めて販売する商いをしていたといいます。その後、家業は次第に織物の仕事から遠ざかりましたが、会社員だった父・容久さんは仕事の傍ら草木染めの研究を続けていました。小室さんが小学3年生のとき、家族で福岡県朝倉市秋月へ移住。容久さんは会社を辞め、そこで本格的に草木染めを始めます。

      「父は以前から、仕事の合間に染め物を研究していたらしいのですが、当時はまったく知らなくて。移る場所も『水がきれいだから』という理由で秋月に決め、2〜3年かけて準備したらしく、僕はそれを秋月に来てから知りました。父が染め物を仕事にし、家を建てて、一から生業をつくっていく。それが、僕が初めて間近で触れた『ものづくり』でした。」

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      父親の仕事を手伝う一方で、図鑑や冒険の手引きを片手に野山を駆け回り、虫や植物を採集していました。少年時代の小室さんは自然に囲まれて過ごし、ときには近所の陶芸家のもとで土をこねることもありました。

      「自然の素材でものをつくることが身近だったんですよね。まだ草木染めを仕事にすると決める前でしたが、当時から素材に触れて何かを表現したり、人が使うものを作ったりしたいと思っていたんです。」

      高校でデザインを学んだのち、東京藝術大学美術学部工芸科へ進学。染織を専攻しながら、漆工や陶芸、金工など、さまざまな工芸に触れる中で、強く惹かれたのが“色”でした。

      「どれも楽しかったけど、やっぱり僕は“色”が好きだった。大学では化学染料も使いましたけど、植物を染料にする草木染めのほうが、自分なりの表現ができるのではないかと思いました。そこで『父のやっていることを、もう一回ゼロから勉強しよう』と。弟子入りするような気持ちで福岡へ戻り、2〜3年間、父のもとで草木染めを学びながら、自分のものづくりをしていました。」

      「当時は、素材から服として形にするまで、1から10まで自分一人でやりたいと思っていました。それでホールガーメント機を導入して、服づくりを始めたんです。作ったものには名前をつけなければならない。同級生から『自分の名前でいいじゃん』と言われて、『じゃあMAITOにするか』と。自分の名前をつけてしまえば、逃げられませんし(笑)、MAITO(=真糸)で糸偏に真剣に取り組むという意味も込められるのでちょうどいいなと。それが2008年、東京へ出る前のことでした。」

      MAITOが選んだ、蔵前という街

      福岡でブランドを立ち上げた小室さんは、東京での拠点として、大学時代からなじみのあった台東区を選びました。

      「台東区は職人さんが多く、ものづくりに必要な材料も集まるので、すごくいい場所だと思っていました。当時はできるだけ費用を抑えたかったという事情もあり、JR秋葉原駅とJR御徒町駅の間の高架下にある商業施設・2k540に事務所兼店舗を構えました。」

      MAITOの商品。さまざまな植物からつくられるプロダクトはカラフルながら、優しい風合いです。

      小室さんが東京に拠点を移した頃、蔵前エリアでは徐々に新しい店が生まれるなど、街として面白い変化があったそうです。もともと浅草橋から蔵前にかけては、金具や手芸用品、おもちゃ、花火などを扱う問屋が集まり、ものづくりや商いが根づいてきました。そこに新しい店が生まれ始めた蔵前という街に、小室さんは興味を持ちます。

      「文具店・カキモリさんをはじめ、近隣の店主たちと飲みに行くようになり、少しずつ知り合いが増えていきました。知り合いが増える中で、東京にも草木染めのできる場所が欲しいと話したところ、『蔵前に来なよ』と声をかけてもらって。人づてに空き物件を教えてもらうなど、僕らみたいな新参者でも、あたたかく受け入れてくれる懐の深さを感じました。」

      こうして2012年、MAITOは蔵前に染め場を備えたアトリエショップを開きました。交通の便がいい上に、小室さんにとって当時の蔵前は賃料が比較的手頃でした。今振り返っても、ものづくりをしながら商売を始めるには、うってつけのエリアだったようです。

      「羽田空港と成田空港の両方から、乗り換えなしで来られる電車があるし、渋谷や青山から来ると、隅田川を越える手前だからか、感覚的にはそこまで遠くないんですよね。それでいて賃料が安かったから、資金の少ない若い人がチャレンジするにもすごく環境がよかったです。」

      変わっていく蔵前、変わらない心意気

      小室さんが蔵前に拠点を構えてから、約14年。古くから問屋や職人が集まる街に、新しい店や作り手が加わり、街の風景も大きく変わったといいます。

      「今はびっくりするくらい、カフェが増えています。」

      小室さんは、建物や街の景観にも変化を感じています。マンションが増え、以前からあった建物が姿を消していくことも。

      「そうなると、街の特徴は薄れていってしまいますよね。雰囲気や情緒みたいなものは、もしかしたらどんどん減っていってしまうかもしれません。」

      アトリエのベランダでは草木が育てられています。

      一方で、街の姿が変わっても、商売をする人たちの関係性には変わらないものがあると、小室さんは感じています。

      「蔵前で変わらないと思うのは“人の気持ち”ですね。14年前もそうでしたが、この街で商売をする人たちは、互いの仕事に対する理解があると思います。お互いの足を引っ張るようなことをしないし、カフェが増えて新しい人たちが入ってきても『いらっしゃい』『わからないことがあれば教えるよ』くらい、自然に受け入れてくれる。そういうところに、下町らしい人情やあたたかみを感じます。」

      「コーヒー屋さんに聞いたんですが、蔵前に来る人はカフェをはしごすることが多いらしいんですよ。ある店がお客さんに、『○○のコーヒーも、おいしいよ』と別の店を勧めることもあるそうです。店同士にいいつながりがあって、面白いですよね。」

      そうした人と人との関係に、小室さんは蔵前の変わらない部分を感じています。

      「街の姿は変わっても、人々の心意気のようなものは、14年前から変わっていない気がします。」

      それぞれの“つくる”が集まる場所

      今、小室さんが改めて蔵前の魅力として挙げるのは、昔からこの街にいる人も、新しくやってきた人も、互いを受け入れていることです。

      「これからどう変わっていくのか。それは、僕にもわからないですけど、変わっていくこと自体は、すごくいいことだと思います。いろんな人がいて、住む人も、商売する人もいる。それぞれが自分たちのあり方を大切にしながら共存できたら、すごくいいですよね。それが蔵前の持ち味だから。」

      小室さんも、昔の蔵前にこだわりすぎるのではなく、新しくこの街に来る人たちを受け入れる側でありたいと話します。

      「僕自身も、『昔の蔵前はこういうものだ!』と決めつける側にはならないようにしたい(笑)。いつも新鮮な気持ちで、一緒にものづくりをしていけたらいいなと思っています。」

      小室さんは今も、草木染めの可能性を探り続けています。「本音をいえば、それだけをやっていたい」と語るほどです。また、アートを学ぶため、2024年からは東京藝術大学の大学院に通っています。

      「それぞれの場所で頑張っている人が、互いの活動に興味を持ち、一緒に何かができる街だったら面白いなと思います。いろいろなことをする人がもっと増えれば街も楽しくなりますし、僕らも、『MAITOがあるから蔵前は面白いね』って言ってもらえる存在になれたら、うれしいですね。」

      人も景色も変わり続ける蔵前で、MAITOも街の人たちと関わりながら、ものづくりを続けています。

      Maito Design Works

      公式ウェブサイト(外部サイトに移動します)https://maitokomuro.com/