高知県高知市
2026.11.02 (Mon)
目次
寿司や刺身などを作る水産加工の過程で出る魚の皮。高知の水産加工会社・興洋フリーズでは、これまで活用されていなかったその皮をレザーに変え、新たな価値を生み出しています。魚が好きだから余すところなく使いたい。そんな思いからフィッシュレザーの開発は始まりました。興洋フリーズ・Ocean Leatherの高橋大海さんに、魚の皮を革に変えるまでの道のりやものづくりに込めた思いについてお話をうかがいました。

Ocean Leatherの店舗に入ると、鮮やかな色をした財布や名刺入れが目に留まります。一見すると普通の革製品ですが、表面をよく見ると、魚のうろこが生み出す独特の模様が浮かんでいます。
「ここにあるのは、マダイやブリなど魚の皮からできたフィッシュレザー製品です」と、Ocean Leatherの高橋大海さんは話します。

マダイ、ブリ、シイラなどのフィッシュレザーを使った革小物。
実は、この革製品に使われているのは、寿司ネタや刺身を作る過程で出る魚の皮です。
「加工場で魚を捌くときに出る魚の皮を使っていて、ほとんどが高知の魚です。魚はいろんな種類があるので、模様や色などバリエーションが豊富で作りがいがあります。」

Ocean Leatherを運営するのは、40年にわたって高知県産の水産物を取り扱う水産加工会社の興洋フリーズです。市場の目の前に位置し、魚を加工して地元のスーパーやホテルなどに卸しています。その会社のすぐ隣にOcean Leatherの店舗があり、興洋フリーズを支えるひとつの事業となっています。
大海さんも子どもの頃からよく会社に来ていたと話します。
「興洋フリーズを創業したのは祖父です。子どもの頃から祖父に連れられて会社によく来ていて、魚は身近な存在でしたね。年末の忙しい時期になると、お手伝いもしていました。」

興洋フリーズの加工場では、寿司ネタや刺身を作っています。
高校生になると、大海さんは実際に加工場で働くようになります。魚を切り分けて加工する中で廃棄される量の多さに気がつき、「もったいない」と感じたそうです。大海さんによると、1匹の魚のうち、食べられるのは4割ほど。骨や皮、頭など6割が廃棄されているのだそうです。
「処分するのにも費用がかかります。魚の骨や皮を肥料として活用する方法もありますが、会社の利益にはつながらないので、ただただ廃棄する場合が多いですね。捨てられてしまう部位をどうにかできないかとずっと考えていました。」
廃棄されることに対してもったいなさを感じたのと同時に、「魚を余すところなく使ってあげたい」という思いがありました。大海さんは中学生の頃から大の釣り好き。今でも休日になると、船を出して釣りに出かけるほど魚が好きだと言います。
「魚の大半を捨ててしまうのはもったいないし、申し訳ないといつも感じていました。魚が好きだからこそ、もっとうまく活用してあげたいと思いましたね。」

興洋フリーズ・Ocean Leatherの高橋大海さん。
高知で生まれ育った大海さんは、大阪で大学生活を送っていましたが、新型コロナウイルスの影響で帰郷を決めます。ちょうど就職活動の時期と重なり、釣り好きな大海さんは進路を考える中で、海がすぐそばにある故郷・高知の魅力を再認識しました。
「高知には海があって釣り好きな自分に合っています。ただ、高知に戻って家業を継ぐのではなく、何か他に案はないかと、加工場で働いていた高校生の頃からずっと考えていました。」
そんな中、釣具店で魚の剥製を見かけたことが転機になります。それまであまり気になったことがなかった剥製ですが、ふと気になって聞いてみると、皮を鞣して(なめして)防腐処理をして剥製が作られていることを知りました。
「同じように魚の皮を使って革製品を作れるはずだと思いました。」

マダイのうろこは大きく魚らしさがあり、ブリは繊細なうろこ模様が特徴です。
そう考えた大海さんは、加工場から出る魚の皮をもらって研究を開始。しかし、牛革に比べて、魚のレザーに関する文献は少なく、苦戦しました。
「革製品の縫製については資料があって簡単に学ぶことができます。でも、魚の皮をレザーにすることは思ったよりも難しかったです。魚の皮を革にするなめし加工についての論文を国会図書館で探すなどして、独学で習得しました。初めて作ったときは、干物みたいにカチカチになったこともありました。たくさん試して、たくさん失敗しましたね。」
それから1年ほどかけて、ヘビやワニ革の加工方法を参考にした試行錯誤を経て、フィッシュレザーが商品化されました。

魚の皮が、軽くて丈夫な革へと変わっていくまでには、たくさんの工程があります。

Ocean Leatherの店舗は加工場と隣接しているので、魚の皮を新鮮な状態で加工できます。
大海さんがレザーに加工する上で苦戦したと話すのが、魚特有の臭い。生臭さを取り除くため、皮に付いた余分な肉を削ぎ落とした後、塩や洗剤をドラム型の機械に入れ、約1週間かけて油分を取り除きます。
「魚種によって性質が違うので、薬剤の配合を調整して生臭さをなくすようにしています。洗剤を入れるだけで皮が溶けてしまうような繊細なものもあるので、新しい魚を取り扱うときは今でも試行錯誤していますね。」

時間をかけて魚の生臭さを取り除きます。
生臭さを取った後は、なめしの工程へ。植物由来のタンニンなどを混ぜたなめし剤をドラムに入れ、時間をかけて加工します。
「果物を食べると舌がザラザラするときがありますよね。あれは果物に含まれるタンニンの成分で舌がなめされている状態です。タンニンを入れて皮をなめすのも同じ仕組みです。」
こうして魚の皮の薄さからは想像できないほど、軽くて丈夫なレザーが出来上がります。

うろこの凹凸感があるフィッシュレザーになりました。
出来上がったフィッシュレザーに染色や塗装を施したのち、職人が一つひとつ丁寧に仕上げます。

財布やキーケースといった革小物に生まれ変わります。
魚の皮がレザーになるまでには、魚らしい素材の良さを生かすために、細かな作業の積み重ねがあるのです。

Ocean Leatherでは主にマダイやブリ、シイラ、サーモンのフィッシュレザーを使った革小物を揃えています。うろこの凹凸のある手触りや魚ならではの模様を楽しめます。
「出世魚として代表的なブリは、名刺入れが人気です。マダイの財布はうろこが大きくて魚らしさがあります。魚種ごとに革の表情が違うのもフィッシュレザーの魅力ですね。」

Ocean Leatherは店舗やオンラインでの販売からスタートし、今では海外ブランドからもサステナブルな素材として関心が寄せられています。国内外でフィッシュレザーの認知度が広がる中、大海さんには「フィッシュレザーを魚好きな人に届けたい」という思いがあるのだそうです。
「事業を大きくしたいというよりは、自分が釣り好きなので、同じように魚が好きな人に届けたいと思っています。海外にも漁師はいて、世界に目を向けると魚が好きな人はたくさんいます。Ocean Leatherが世界の魚好きに愛されるブランドになれたらうれしいですね。」

Ocean Leatherの革製品は、釣り好きな人へのプレゼントとして選ばれることが多いそう。
革小物の販売のほか、漁師や釣り好きな人から寄せられた魚でオーダーメイドの革製品を作るなど、Ocean Leatherの取り組みからは、開発当時から変わらない魚への深い愛情が垣間見えました。

「もっと魚を活用できるのでは?」という、大海さんの素朴な疑問から始まったOcean Leatherのものづくり。これまで捨てられていた魚の皮を、フィッシュレザーという新たな素材へと生まれ変わらせました。
Ocean Leatherでは、他の水産業者から廃棄される魚の皮にも目を向け、その皮を買い取ってフィッシュレザーの革製品にしています。
「魚の皮をレザーにすることで付加価値が生まれます。フィッシュレザーを通して1匹の魚が持つ価値を高め、高知の水産業に好循環を生み出せたらいいですね。」
子どもの頃から高知の海で魚に親しんできた大海さんの「魚が好きだから余すところなく使ってあげたい」という思い。その気持ちは、これまで見過ごされてきた魚の皮を生かす、Ocean Leatherのものづくりに息づいています。
Ocean Leather
公式ウェブサイト(外部サイトに移動します)
https://oceanleatherofficial.com/